【電源開発 渡部社長】カーボンニュートラルに「CO2フリー発電」で挑み新たな価値創造へ

2021年11月1日

カーボンニュートラルという時代の要請を受け、保有技術、資産を生かしたロードマップを策定した。CO2フリー水素発電や水素製造、再生可能エネルギー拡大など多方面の可能性を追求。カーボンニュートラル社会の実現へ貢献する。

わたなべ・としふみ
1977年東大法学部卒、同年電源開発入社。2002年企画部長、06年取締役、09年常務などを経て、13年副社長、16年6月から現職。

志賀 第六次エネルギー基本計画づくりは政局に翻弄されましたが、どう受け止めましたか。

渡部 エネルギー問題の中での気候変動問題の重要性が一層増し、基本計画の性格の変化を感じています。ただ、やはりS(安全性)を大前提に、3E(供給安定性、経済性、環境性)のバランスを取ることが不可欠。今回の基本計画でもこの重要な前提は揺らがないと再認識しました。

志賀 とはいえ石炭火力政策は大きく動いており、非効率設備のフェードアウトに続き、排出削減対策が講じられていない設備への新規輸出支援停止も決まりました。

渡部 エネルギーは、必要とされる量を不断に供給し続けることが必須であり、当社の資産を活用して社会の要請に応えていきます。老朽化した石炭火力については、多方面に配慮しながら順次ソフトランディングを目指します。ただ、今日明日で休廃止するのは現実的ではありません。今後もバイオマスやアンモニアを混焼するなど、当社なりのノウハウで可能な限りCO2排出量の低減を図ります。今年2月に、こうした脱炭素に向けたビジョンを「BLUE MISSION 2050」として発表しました。

志賀 ポイントは?

渡部 2030年に国内発電事業のCO2排出量を17〜19年度3カ年平均実績比で40%削減、そして50年実質排出ゼロを目指し、「加速性」と「アップサイクル」を軸にプランを策定しました。再生可能エネルギーや大間原子力計画の推進、石炭火力のCO2フリー水素発電への置換、CO2フリー水素製造、電力ネットワークの安定化・増強に挑戦をしていきます。

志賀 アップサイクルという言葉は初めて聞きました。また後で詳しく教えてください。

OCGの技術を実装 原子力は確実な進捗を

志賀 石炭火力フェードアウトは多方面に目を配って対応する必要があるかと思いますが、具体的にどんな絵を描いていますか。

渡部 発電所の立地状況や経年化の度合い、地元経済や地域の電力需給への影響などさまざまな要素を踏まえ、地点毎に個別に判断していきます。 例えば当社で一番古く、運転開始から50年以上が経過する高砂火力は将来的には運転を止める方向ですが、一方で、次に古い松島火力はまだ稼働できる状況にあります。現在は、中国電力と共同で設立した大崎クールジェン(OCG)で実証した石炭ガス化技術を実機に適用し、松島の2号機にガス化設備を追設する計画を検討中です。石炭火力をCO2フリー水素発電に更新していく第一歩となります。このように、既存設備に新技術を適用することを「アップサイクル」と呼んでいます。既存の設備をうまく生かして、経済合理的かつ早期に新たな価値を生みだす取り組みです。

志賀 アップサイクルの他地点への展開や輸出といった考えはありますか。

渡部 松島でのノウハウを、国内の他地点に展開したいと考えています。海外へも、例えば発電用に自国の石炭を使いたいという産炭国からのニーズは十分に考えられ、そうした機会があればこの技術を提供していきたいと思います。

志賀 ただ、政府系、民間、いずれの金融機関も石炭火力の輸出支援に否定的なことは、懸念材料ではありませんか。

渡部 石炭火力輸出についてはさまざまな意見がありますが、当社が目指すのは、原料は石炭であっても、石炭火力というより、石炭から取り出したCO2フリー水素を用いた発電技術です。OCGで実証試験を行っている酸素吹石炭ガス化技術はCO2の分離回収に適しています。本技術の活用を通じて、石炭活用のニーズがある国のCO2削減と水素社会への移行に貢献していくことができると考えています。

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