【電源開発 渡部社長】カーボンニュートラルに「CO2フリー発電」で挑み新たな価値創造へ

2021年11月1日

石炭から水素発電へ CCSにも積極姿勢


豪州で実証試験を進める褐炭ガス化・水素精製設備

志賀 カーボンニュートラルに向かうには技術革新がやはり必要で、その中で燃料アンモニアに注目が集まっています。

渡部 アンモニアはもともとガス火力に混焼しやすいのですが、石炭火力でも可能です。当社でも過去に研究の経験がありますが、改めてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業として実機適用を前提に研究を進めています。

志賀 サプライチェーンに関して、豪州での褐炭水素実証事業にも参画していますね。

渡部 豪州で褐炭という品位が低く未利用の石炭から水素を作り、それを液化して日本まで輸送するプロジェクトを他社と共同で進めています。水素製造のコア技術には当社が長年に渡り開発してきた石炭ガス化技術を使います。商用段階では、発生したCO2を貯留してCO2フリーの水素とする計画です。ここで確立した技術をもとに水素の製造・販売まで手を伸ばし、水素社会の実現に貢献していきたい。
 後は水素をどうやって使うかという点が重要です。水素活用については数十年前から模索されてきましたが、化石燃料価格の安定性を背景に、事業化は進みませんでした。今度こそ水素社会を実現するつもりで取り組まなければなりません。当社としては石炭火力のアップサイクルを進めた先に、CO2フリー水素発電への展開も視野に入れています。

志賀 しかし脱炭素と言いながら、足元では化石燃料、ことに石炭価格が高騰しており、ギャップがあります。今後の調達戦略についてはどんな考えでしょうか。

渡部 当社は豪州の炭鉱に開発投資した権益があるので、当面は安定した形で調達できます。とはいえ、炭鉱への開発投資が今後も続くかどうかなどで、状況は大きく変わってきますので、情勢を注視していきます。

志賀 CCS(CO2回収・貯留)関連にも積極的ですが、コストや適地の問題があります。

渡部 当社が炭素を掘り出して使う以上、CO2を貯留する技術の活用は不可欠です。回収技術は確立済みで、あとは貯留を含めた最終的なコストがどうなるかが課題です。OCGでのCO2回収の実証試験において回収コストの検討を実施するとともに、貯留についても国内外の実証試験に参画し、知見を獲得してきました。
 海外では現在、インドネシア・グンディでCCS実証に向けたJCM(二国間クレジット制度)調査事業を行っています。さらに今年設立されたアジアCCUSネットワークにも参画し、海外での情報収集、連携にも積極的に取り組んでいきます。

高まるひっ迫リスク 冬への備え万全に

志賀 直近の安定供給リスクについてですが、今年1月にはLNG不足を発端に電力需給がひっ迫し、市場価格が急騰しました。さらに今度の冬もひっ迫リスクがあるとして、政府が発電事業者にさまざまな策を講じるよう求めています。

渡部 1月のひっ迫時には、申し訳ないことに当社の発電所も、年度をまたぐトラブルが発生しました。今は戦列に復帰していますが、次の冬に向けて設備補修を万全にして、トラブルがないよう、仮に起きても早期復旧するように努めます。

志賀 新電力もかなりふるいに掛けられました。

渡部 こうした市場価格の高騰局面は市場の本来ありえる姿の一つではありますが、事業運営のためには市場価格が安定していることは大切です。電気のサプライヤーの入れ替わりが激しいことは、決して望ましくはありません。1月のような市場状況は想定外でしたが、これを糧に市場価格の変動への対策強化を検討し実施しているところです。

志賀 ちなみに、30年時点の電源別の収益見通しに関して公表している数字はありますか。

渡部 対外的に公表している数字はありません。老朽化した石炭火力のフェードアウト自体は一定の影響は想定されますが、他方で、既設火力のアップサイクルや再エネの開発の加速などによりカーボンニュートラルに挑戦していきます。必ずやり遂げたいと思っています。

志賀 ドイツ政府が石炭火力の廃止を補償するように、日本も本来そうした制度を作り、脱炭素にはそれだけコストがかかることを明示すべきでしょう。政府が脱炭素を本気で進めるなら、現実に即した政策こそ打ち出すべきだと思います。
 本日はありがとうございました。

対談を終えて

脱炭素が世界共通の課題となって来ている中で、電源開発がどう事業を転換し、発展しつづけるのか、まさに社長の判断が注目されている。その戦略は明確で、S+3Eを基本に、革新技術を採用し、CO2フリーの水素発電に生まれ変わることで2050年実質排出ゼロを達成する。CO2フリー水素の製造も手掛け、水素社会の実現に貢献するとの方針。加えて、風力の更新や新設、水力の一括更新などで25年度に150万kWの再エネ拡大を達成し、大間原子力計画の完遂を含めてCO2フリー電源を積極的に拡大するという。不透明な時代にこそ求められている明解さ。自信に裏打ちされた爽やかさが印象的だ。

(本誌/志賀正利)

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