【北陸電力 松田社長】ゲームチェンジ見据えお客さまに喜ばれるソリューション提供へ

2021年11月1日

志賀 話が変わりますが、今度の冬の電力需給ひっ迫に関する問題はなさそうですか。

松田 夏と冬に供給力を厚くできるよう、軽負荷期に火力の補修をしていますが、近年では特に冬の需要は量もロードカーブも大きくなります。現時点では安定供給に支障は出ない見通しですが、発電所の計画外トラブルなどの可能性もゼロとは言い切れず、対応策も検討しているところです。昨年の全国的な需給ひっ迫や市場価格高騰の経験から、電気をどう手当てすべきか、相対契約の厚みをどうするか、先物市場や先渡市場をどのように活用するかといった供給力確保対策や価格高騰対策も進めています。リスクヘッジの検討は燃料についても言え、特に今は石炭をはじめ化石燃料価格が高騰しており、天井が見えない状況です。石炭は長期契約が多く、数量は安定的に確保できていますが、価格は時々のフォーミュラーに連動するので、価格の固定化やヘッジも活用し対応しています。

志賀 福井都市ガスの設立に続き、公募を経て金沢市営ガス事業譲渡が正式に決まりましたが、どのような目的からですか。

松田 金沢市から発電とガス事業をセットで民営化するとの話がありました。当社戦略の柱の一つでもある「総合エネルギー知識産業」の一環として、石川県の県都である金沢市のガスと当社の発電事業を責任ある立場で担い、地域の皆さまのお役に立ちたいとの思いを強くし、当社を中心としたコンソーシアムを組み手を挙げました。

意欲的な公営ガス参入 地場企業と連携強化

志賀 コンソーシアムには新聞社などのユニークな地元企業も入っているようです。

松田 金沢市の大切な財産をお任せいただく上では、地場連合で事業を盛り上げたいとの思いがありました。市民の方々のお役に立つためにも当社とガス会社だけでなく、地元の皆さんと一緒に会社を育て、地域の会社の意見や考え方を取り入れることは非常に効果的だと思います。

志賀 契約内容にはガス料金水準の10年間以上の維持などがあることから、利益が出にくいように思えます。

松田 民営化によるアイデアや活力でお客さまに喜んでいただかなければ当社が引き受けた意味がありません。金沢市から発電とガス事業を譲り受ける新会社で合理化や効率化、新たなサービスの提供も含め、お客さまにとってより良いサービスとなるよう、来年4月から事業を展開していきます。

志賀 今はガス料金も規制が撤廃され、柔軟な料金設定が可能になった半面、脱炭素化政策では電化シフトの方針が示され、ガス事業の展望を懸念する意見もあります。

松田 ガスそのものの脱炭素化を図ることも大きな課題ですが、エネルギーを適材適所で供給するために、電気とガスをトータルで考え、お客さまのエネルギーの効率化を図ることが重要と考えます。

30年46%減にも前向き さらなる成長へ変革を

志賀 今夏、第六次エネルギー基本計画の素案が公表されました。弊誌は亡国の計画と評価しましたが、今回の計画案をどうご覧になりましたか。

松田 菅義偉前首相が大きく打ち出した50年カーボンニュートラル、および30年目標を強く意識したエネルギーミックスであり、既存の延長だけでは達成し得ない、非常にチャレンジングな目標です。相当厳しい内容ではありますが、できない理由を言っていても仕方ありません。

志賀 チャンスと捉えていると。

松田 はい。お客さまの中にはエネルギー問題への取り組みが必須だと考えている方がたくさんいます。苦しい状況下でも、お客さまの喜びがわれわれの成長戦略につながるのは幸せなことです。お客さまのご要望を聞き、提案を受け入れてもらえる関係性の中で、電気事業の枠を越えた形で寄り添いながら進めていきたいと思います。

志賀 冒頭発言されたようにゲームチェンジとも言える世の中となり、人材育成や社員のモチベーションも重要な要素だと思います。

松田 私は「3C」と社内に呼びかけていますが、今後も経営環境は目まぐるしく変化することが予想されるこの変革(チェンジ)の時代を、むしろ機会(チャンス)と捉え、果敢に挑戦(チャレンジ)し、北陸地域の課題解決に貢献し、北陸地域とともに未来志向で成長していきたいと考えています。事業の枠を越えたチャレンジのためには、自ら率先して行動し、皆が一生懸命取り組んだ結果、仮に失敗したとしても、次につながるチャレンジ精神を適切に評価することが大切だと思います。実績だけでなく、次のチャレンジにつなげていくこともしっかり見ていきたい。仕事のあり方も供給サイドの視点になりがちですが、お客さま視点を大事にするよう社内で話をしています。お客さまと直に接しない部所も多いですが、例えば隣の部所をお客さまと見立てて、その目線に立って考えてみることなども促しています。
 一昔前は、設備産業として設備を作り、10年間計画どおりに使っていくことが重要視されていました。今も若干その傾向はありますが、社会構造が大きく変化する中で自ら変革していかなければ、生き残りは難しいものです。

対談を終えて

常務から社長就任は同社初。50代での就任はまれ、営業畑中心もまれという異例の新社長誕生となった。時代は少子高齢化、人口減少、温暖化対応、電力自由化と課題山積だが、これをゲームチェンジと捉え、若さと行動力とポイントを押さえるカンの良さで挑む。創業70周年に当たって、北陸電力が難産の末誕生した意義を改めて噛みしめている。先人達が築いた水力王国を土台に変革、機会、挑戦の3Cで課題解決に貢献したいと胸中は熱い。

(本誌/志賀正利)

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