【中部電力 林社長】社会の持続的な発展へ 新たな価値を創出するビジネスモデルを構築

2022年1月1日

志賀 化石燃料価格の高騰が続いています。昨年度冬と同様、電力の需給ひっ迫や卸市場価格の高騰などが危ぶまれています。

 今冬については、10年に1度の厳冬が到来したとしても、電力の安定供給が確保される見通しです。ただし、想定外の設備の故障があれば供給に影響が出ますので、メンテナンスに万全を尽くしながら需要期に備えます。卸電力価格は上昇傾向にありますが、この要因を一つに特定することはとても難しいことであり、検証する必要があるでしょう。

 いずれにしても、エネルギー源を多様化して最適なバランスを維持することはエネルギーセキュリティ、安定供給、そして価格の面で重要なことです。CCSや水素・アンモニアを活用した火力の脱炭素化を図り、電源の多様化に向けたロードマップを描き実行することで、価格や安定供給を維持しながら脱炭素化に向かうことができるのだと考えています。

志賀 化石燃料の調達戦略はどのように変わっていきますか。

 その点は、LNGの長期契約と短期のトレーディング、石炭トレーディングも合わせて手掛けているJERAが得意としているところだと自負しています。バーゲニングパワーがあるということは、さまざまな情報が入ってくるということであり、それらを集約し最適な調達が可能となることから、安定供給や価格ヘッジのスキルは、東京電力と中部電力の統合前よりも格段に上がりました。脱炭素化へのトランジションとして、40年ごろまではガス需要は増えますから、燃料調達戦略はJERAにとって非常に重要であることは、今後も変わりありません。

志賀 原子力の新規開発についてはどうお考えですか。

 50年脱炭素化を達成しようとするのであれば、あらゆる手段を講じなければなりません。再エネの拡大は言うまでもありませんが、安全を大前提とした原子力の最大限の活用も不可欠です。新設をどう考えるかですが、エネルギー基本計画には明記されていないとはいえ、日本の技術力や産業を考えればいずれ新増設が必要になると考えています。

志賀 新規制基準への適合性確認審査が続く浜岡原子力発電所ですが、南海トラフ巨大地震が起きた際に想定される津波対策の前提となる「基準津波」の評価を従来の20・3mから22・5mに引き上げるとの報道がありました。

 当社として津波評価に影響の大きい条件をより厳しく設定した結果、敷地前面での津波の最高水位はT・P・(東京湾平均海面)+22・5mとなりました。引き続き、審査会合において丁寧にご説明していきます。

浜岡原子力発電所の防災訓練の様子

変化に柔軟に対応 「人財」戦略を強化

志賀 新ビジョンの冒頭で、「中部電力グループの人財戦略を強化」とあることが印象的でした。

 「経営ビジョン2・0」では、計画していた事業をこれまで以上にスピード感を持って展開することを打ち出しました。これらを実行するためには、やはり「人財」が大切です。

 人財の成長と活躍を通じた企業活動の結果として、脱炭素化に向けた社会の持続的な発展につなげることができます。人財と技術力を大事にするとともに、そこへの投資や、採用、教育、評価の在り方をどう変革していくか考えていかなければなりません。

 社長に就任した際、「熱意と挑戦と和を持ち、しなやかな企業グループにしたい」と申し上げました。強い企業が永遠に勝ち続けるわけではありません。生き残れるのは、変化に柔軟に対応できる企業です。変化を先取りし、組織を変えていくことが非常に大切です。

志賀 大変行動力がおありなので、今後どのように中部電力、電力業界の変革をけん引していくのか非常に楽しみにしています。本日はありがとうございました。

対談を終えて
政府の2050年カーボンニュートラルの方針決定を受け、グループの経営ビジョンを見直した。安心安全な分散・循環型社会へエネルギー事業者としての貢献策を打ち出した。脱炭素社会の実現には電源の脱炭素化と需要側の電化が重要と説き、エネルギーセキュリティーの面からも多様な電源を持つ必要性を力説する。脱炭素=脱石炭ではないのだ。また、新ビジョンの冒頭に人財戦略の強化を掲げ、自らの行動力で変化に対応できる企業を目指す。(本誌/志賀正利)

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