【特集2】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線

2022年1月3日

【FD】

自己託送とPPAを組み合わせ 画期的な「オフサイト」サービス

FD(愛知県刈谷市、鈴木政司社長)は2001年に設立された太陽光発電施設の建設計画から施工、運営管理までを一手に請け負う事業者だ。再エネ固定価格買い取り制度(FIT)が開始となった12年ごろから、産業用の太陽光建設を数多く手掛けてきた。

FIT制度による太陽光バブルの波を受け、会社は急成長した。しかし本来持つ実力以上の売り上げを達成していたことで、鈴木社長は「このままでいいのかと危機感を抱いていた」。そこで18年頃から始めたのが、FIT制度に頼らず建設する自家消費型の太陽光発電だ。PPA(電力販売契約)などの仕組みを活用した独自の新サービスを提供することで、現在は規模を追わず内容重視で事業を展開していく方向を目指している。

世界的な脱炭素化の動きを背景に、さまざまな企業がカーボンニュートラルの取り組みを本格化させる中、FDが発案しソニー、デジタルグリッドの2社と共同で21年4月から運用を始めた「オフサイト自己託送」のサービスが、業界内外の関心を集めている。

オフサイト自己託送のスキーム概要

FDがスキーム設計を担当 ソニーの再エネ化を後押し

この仕組みを簡単に解説すると、ソニーの敷地外にある牛舎(愛知県東海市)の屋根に、FDが393kWの太陽光を設置。発電した電力を大手電力会社の送電網を通じ、約30㎞離れたソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズの幸田サイト(愛知県額田郡)へ自己託送することで、自家消費を実現するものだ。

FDがスキームの設計と外部の敷地を借りての太陽光設置を担当し、ソニーは自己託送の枠組みで発電者・需要家として、太陽光の電力を取得。デジタルグリッドはITによる発電量予測や、電力広域的運営推進機関への計画値提出などを担当した(図参照)。

自己託送といえば、遠隔地にある自社保有の電源で発電するのが一般的だが、FDではそこにPPAを組み入れることで、従来の概念を覆すようなユニークなサービスを生み出した。

どのような経緯で、このサービスは考案されたのか。まずソニーでは、40年までに自社で使用する全ての電気の再エネ化を目標に掲げ、20年から自己託送を導入しているものの、自社の敷地に限りがあり、再エネ化目標の達成が困難という状況に置かれていた。

一方FDでは、企業向けに同サービスを提案するに当たってコストが課題になると見ていた。太陽光でスタンダードな野立て方式だと、敷地の造成、架台の設置、工事などでコストがかさみ、企業の要求する料金水準を達成するのは難しい。

そこで今回の取り組みでは、FDが牛舎の屋根を借り、賃料・寄付金を管理主に支払って太陽光設備を設置したことで、これらの課題をクリアしたのだ。

「牛舎の屋根を利用したことで設置コストを抑えることができました。しかも、パネルの熱遮蔽効果によって牛の体調が安定するなど、双方に良い効果を生みました」(鈴木社長)。ソニーも敷地問題を解消する選択肢が見つかり、目標達成への明るい兆しが見えてきた。

今回の取り組みを発表して以来、脱炭素化を推進する企業や自治体などから、「うちでも導入できないか」との問い合わせが相次いでいるという。しかし系統容量の問題から、再エネ電気を流せる地域が少なく、「オフサイト自己託送」の適地が限られてしまうことが課題に浮上している。

鈴木社長は「国が再エネ主力電源化の方針を掲げるのならば、この問題を解消してほしい」と訴える。 FDでは今後、系統上の問題点を随時検証しながら、「オフサイト自己託送」の導入を全国的に進めていく方針だ。

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