【東京ガス 内田社長】低・脱炭素の取り組み加速 需要と供給の両面から 脱炭素化技術を確立する

2022年5月1日

志賀 19年に策定した経営ビジョン「Compass2030」の進捗はいかがでしょうか。

内田 「Compass2030」では、三つの挑戦を掲げています。一つは、CO2ネット・ゼロをリードすること、もう一つはさまざまなパートナーと事業を起こす「価値共創」を進めること、三つ目がLNGバリューチェーンを変革することです。それぞれの挑戦について、一定の成果が出始めていると評価しています。CO2ネット・ゼロについては、太陽光や風力、バイオマスなどの発電所の建設を国内外で進めてきました。

 また、50年までに水素やメタネーションといった次世代エネルギーを社会実装するための技術開発にも取り組んでいます。低コストでグリーン水素を製造するための水電解システムの心臓部となる「セルスタック」の開発に着手しているほか、3月には横浜テクノステーションにおけるメタネーションの実証試験を開始しました。今後、横浜市との連携の下、市の施設からCO2を回収し、メタネーションに活用していきます。一方で、トランジション(移行期)は、天然ガスの有効活用が欠かせません。3月2日には、東京ガスエンジニアリングソリューションズが四国電力、住友化学などと建設した「新居浜LNG基地」が稼働し、石炭火力からより低炭素なLNG火力に置き換えています。

都市ガス脱炭素化技術 40年代社会実装目指す

志賀 21年11月、「Compass2030」実現のための具体的な道筋「Compass Action」を発表しました。

内田 大きな違いは、LNGにしても電力にしても市場のボラティリティが非常に高まっているということです。そうしたボラタイズな市場に対してどのように取り組むべきなのか、具体的な行動を示したものが「Compass Action」です。昨年10月に、30年の温暖化ガス削減目標(NDC)が26%から46%に大幅に引き上げられました。それまで、CO2ネット・ゼロに向けトップを走っていたと自認していましたが、さまざまな企業が対応に乗り出した結果、当社としても取り組みをさらに加速する必要がありました。

志賀 都市ガスの脱炭素化に向け、メタネーションの技術開発を積極化しているのもその一環ですね。

内田 はい。3月18日に、太平洋セメントと脱炭素社会の実現に向けた取り組みで協業することを発表し、その第一弾として、セメント製造工程から回収される高濃度CO2を原料として合成されるメタンを都市ガスインフラで供給するメタネーション事業の実現可能性調査(FS)を開始することにしました。また、富士フイルム、神奈川県南足柄市とも、ものづくりにおけるカーボンニュートラルモデルを創り出す先進的な取り組みを推進する「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結しました。これは、エネルギー事業者と利用者、地方自治体が協働し、ネット・ゼロを目指すものです。

 こうした需要サイドでガスのカーボンニュートラル化を進める一方で、大規模なメタネーションにより供給サイドから都市ガスをCO2ネット・ゼロにしようという取り組みも進捗しています。例えば昨年11月、三菱商事と北米、豪州、中東、アジアといったLNG輸出国における再生可能エネルギー由来のグリーン水素とCO2から製造する合成メタンのサプライチェーン構築に関するFSを開始しましたし、マレーシアの国営石油会社ペトロナス、住友商事とマレーシアで同様のFSに着手しています。1年をめどに調査結果をまとめ、それに沿ってロードマップを描きたいと考えています。これらが実現すれば、既存の都市ガスインフラを全てそのまま活用することができ、経済合理性をもって都市ガスのカーボンニュートラル化を達成できます。

横浜テクノステーションに導入したメタネーション装置

志賀 50年ごろの実現を目指すのでしょうか。

内田 実はそれでは遅いと思っています。イノベーションがいつ起きるかは不確実なので、いつまでにというお約束はなかなかできませんが、できれば40年代の早い段階で実現したいですね。水素をCO2と反応させメタンを生成する「サバティエ反応」は、既に実現している技術です。とはいえ、巨大な化学プラントを建設して商用化することは、技術的にも経済的にも非常にハードルが高いと言われています。それを小規模から取り組み、徐々に中規模、大規模商用化へとつなげていきます。

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