【東京ガス 内田社長】低・脱炭素の取り組み加速 需要と供給の両面から 脱炭素化技術を確立する

2022年5月1日

志賀 需給ひっ迫などさまざまな課題に直面していますが、電力ビジネスを今後も成長事業として位置付けますか。

内田 もちろんです。電力は小売事業のほか発電卸事業もあり、そのどちらをも拡大していきたいと考えています。電力のさまざまな市場制度が毎年のように変更になり、そこにどう対応していくかは常に課題であると認識しています。

 千葉県袖ケ浦市の10万kWのガスタービンの発電所を解体し、20年代半ばの稼働を目指しガスエンジンの発電所にリプレースすることを決めました。ガスエンジンは立ち上がりが非常に速いため、ごく短時間の需給変動に対応することができます。電気が不足した際はJEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場が価格高騰しているので、市場調達に代わりガスエンジンを立ち上げて活用し余った電力をスポット市場で売ることができれば非常に経済的です。

 当社は扇島パワーステーションや神戸製鋼の真岡発電所など、大規模な供給力を持ち、これまではこうした機動性のある発電所の必要性をそれほど重視していませんでしたが、昨今の市場動向から、そのような戦略を採ることに方針転換したのです。もちろん、大型の火力電源投資についても今後の検討課題です。来年度以降、新たな中期経営計画を策定することになりますが、その検討事項の一つとなります。

洋上風力参入へ 浮体式技術に注力

志賀 その他、次期中計を策定する上でのポイントはありますか。

内田 今後、再エネ電源投資を積極的に進めていく方針ですが、それをいかに活用するかが大きなテーマになると思います。これまでのFIT(固定価格買い取り)制度は、発電した電気を売れば終わりでしたが、この4月にFIP(フィード・イン・プレミアム)制度に移行したことで、蓄電技術や発電量予測などと組み合わせた需要に合わせた電力供給が非常に重要になります。当社は需要を持っているのでそこで強みを発揮することができるはずです。FIPをうまく活用し、どのようなサービスを提供できるか検討していきます。

米プリンシプル・パワー社に出資し、浮体式洋上風力の開発に注力する

志賀 洋上風力事業については、どのような戦略を描いていますか。

内田 日本では、太陽光も陸上風力も設置場所がほぼなくなりつつあり、今後の再エネ拡大の余地は洋上風力しかありません。それでも日本の近海には大陸棚がなく、浮体式を選択せざるを得ないでしょう。当社は、米国プリンシプル・パワー社に出資し浮体式洋上風力の技術開発に取り組んでおり、遅くとも30年代には、浮体式を主力としながら洋上風力に参入したいと考えています。事業化に当たっては、いくつかの候補の中からパートナーを組んでいきます。

志賀 ありがとうございました。

対談を終えて
ウクライナ危機で注目を集めるサハリン2からのLNG禁輸措置は、ロシアを利するだけときっぱり否定。これまでの欧米のESG投資政策による化石資源投資抑制と重なって、2030年代の世界の天然ガス市場はひっ迫化すると強く懸念、新たなLNG調達戦略を練る。一方、カーボンニュートラル対策は多様な事業者と提携しメタネーション技術の開発に着手、40年代の社会実装を目指す。多様な経営戦略の展開に、鍛えられた複眼的思考力があると見た。(本誌/志賀正利)

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