再エネ普及を支える電化の理想形 新事業モデルの挑戦と価値

2020年9月4日

座談会:竹内純子/国際環境経済研究所理事・主席研究員
    矢田部隆志/東京電力ホールディングス技術戦略ユニット技術統括室プロデューサー
    比嘉直人/ネクステムズ代表取締役社長
    西川弘記/パナソニックエコソリューションズ社スマートエネルギー営業部主任技師

国が目指す「再エネ主力電源化」への道のりは長い。ヒートポンプ・蓄熱を中心とした電化システムが果たす役割は何か。TPO(第三者保有)などの新しい事業モデルがその道程に貢献しようと動き出している。

竹内純子

竹内 コロナ禍によって社会システムが大きく変わったと言われていますが、エネルギー業界ではどうでしょうか。スピード感やバランスが多少変わることはあったとしても、分散化や低炭素化、デジタル化といった方向性はそれほど変わっていないと私自身は感じています。まず、コロナ禍においての環境変化について、ご意見や感じていることをお聞かせください。

矢田部 7月に総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が開催され、エネルギー情勢の現状と課題が示されました。気になったのが「エネルギー転換」、つまり需要側の電化や水素化の項目です。

 これまでのエネルギー政策は供給側の視点が多かったわけですが、今後は需要側の対策に注力していく必要があるのではないか、と明記されたわけです。東京電力としても需要側の重要性は認識しており、電化や水素化が求められていると感じ始めています。

 コロナ禍の状況変化について触れると、今年度の第1四半期の電力需要・ガス需要が果たしてどうなったのか。関東においては、電力需要は5%、ガス需要は20%くらい落ち込んでいます。家庭用は堅調ですが、特にガスについては産業用・業務用の落ち込みが大きい。エネルギー転換の加速化は、こうした末端の需要構造が変化している点で進んでいく可能性があるのではないかと感じています。

比嘉 コロナ自体、大変に不幸なできごとですが、幸いリモートワークが意外と活用できるなと感じています。リモートワークでは、効率良くいろいろなところとつながって仕事ができる。

 後ほど説明しますが、われわれが宮古島で始めている事業、つまり「TPO(第三者所有)」や、「PPA(電力売買契約)」ですが、住宅側に太陽光パネルや蓄電池、エコキュートなどを普及させようとする事業モデルでは、太陽光発電の自家消費を促すリモートワークは歓迎です。島民にとって、住宅の光熱費への関心が高まれば、われわれの事業にとっては追い風だと思っています。

 これまで宮古島は過剰な観光バブル景気でした。しかし、コロナ禍によって観光客がパタッと止まってしまった。そうした中、住民の皆さんが少し冷静になって自分たちの暮らしに向き合うようになっており、われわれのサービスが注目されるようになってきました。

エネルギーとレジリエンス 個人の対策と全体の対策

西川 モノづくりの企業として気になるのが、雇用システムですね。人手を介さないロボットやAI化が加速するのではないかと感じています。加えて中国一極集中に恩恵を受けてきた製造業界にとって、グローバルチェーンのレジリエンスも考えていかなければと感じています。例えば、太陽光発電のパワコンなども中国製部品が不足すると製品が完成しないなど、リスクと恩恵のバランスを考慮しないといけないと感じています。

竹内 レジリエンスという単語が出てきました。2018年の北海道ブラックアウトや19年に千葉を襲った台風被害をきっかけに、エネルギー業界でもレジリエンスがキーワードになりつつあります。さらに、コロナによって、リスクはものすごく多様だということをわれわれは今、学んでいます。

矢田部隆志

矢田部 レジリエンス対策では、最終的に個人個人が対策を進めないといけないポイントがある中で、再エネを中心とした分散型電源が解の一つになると感じています。

 再エネの自家消費化には、やはり家の中の電化を進める必要があります。普段から再エネ電気を使いこなすことで、非常時でも対処できる。そうすると、エコキュートや太陽光発電を組み合わせた仕組みは今後のレジリエンスのモデルの一つになると思っています。

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