【中部電力 林社長】新たな価値創出に挑戦し 社会課題の解決と持続的な成長を実現する

2020年12月28日

志賀 中部電力としてどのように取り組んでいきますか。

 21年は、「脱炭素化へのチャレンジ」の年になると考えており、エネルギー事業者である当社グループの使命として取り組みを加速していきます。当社グループとしての具体的なアプローチについては今後検討していくことになりますが、安全を大前提とした原子力発電の活用や再エネの導入拡大を進めるとともに、中部電力パワーグリッドにおける次世代型ネットワークへの転換や、中部電力ミライズにおけるCO2フリーメニューや太陽光発電の自家消費サービスなど、全ての事業分野においてCO2削減に向けた取り組みを強化していくことで、脱炭素化に向けて最大限努力していきます。

炭素の鍵を握る御前崎風力

志賀 そうした取り組みを進めていく上で、中部地方を供給エリアとする地理的な強みはどこにありますか。

 中部地方はものづくりのメッカであり、技術的なイノベーションの素地を有する企業が数多く存在しており、こうした企業は既に脱炭素に対する社会的責任とニーズを強く感じています。当社は、トヨタ、豊田通商とともに「トヨタグリーンエナジー」という会社を20年4月に設立しました。その目的は、電力会社とお客さまが一緒に再生可能エネルギーを開発していくことにあります。このように、お客さまと一緒に脱炭素化の取り組みを進められることは、当社グループにとって大きな強みになると思います。

志賀 JERAによる火力電源の脱炭素戦略のロードマップ策定については、どのような期待を寄せていますか。

 JERAについては、国内最大の発電会社として、50年時点で国内外の事業から排出されるCO2の実質ゼロを目標として掲げるとともに、この実現に向け、30年までに国内において、「非効率な石炭火力発電所(超臨界以下)の全台停廃止」や「高効率な石炭火力発電所へのアンモニア混焼実証促進」、「洋上風力を中心とした再エネ開発促進」などの取り組みを進めていくものと承知しています。JERAの掲げる目標は、当社グループのCO2削減の取り組みに資するものであり、大いに期待しているところです。

 もちろん、今の技術ですぐに実現できるようなものではありません。目標に向けて進むためにはビジョンが必要ですから、そのための選択肢として提示したということです。エネルギー資源に乏しいわが国においては、「S+3E」の観点から電源戦略を総合的に検討する必要があります。国内の電力を全て再エネで賄うことはできませんし、蓄電池の技術革新が期待できるとはいえ、それだけで全ての課題を解決できるわけではありません。

 安定供給の観点から、火力発電が原子力、再エネと並んでこれからも必要とされる電源であることは間違いなく、その火力発電の脱炭素戦略なくして、脱炭素社会の実現は叶いません。目標を達成するためには、一つの技術に頼るのではなく、さまざまな技術革新に取り組むべきです。

さまざまな課題解決に 原子力が果たす役割

志賀 エネルギー基本計画の見直しに向けた議論が加速しています。

 現行のエネルギー基本計画では、「S+3E」の観点から、特定の電源や燃料に過度に依存しない、バランスのとれた供給体制を構築する重要性が示されています。今後、エネルギー基本計画を考えていく際には、エネルギー政策が国民生活や経済活動の基盤を支える国の根幹をなす政策であることを踏まえ、資源に乏しい我が国の実情を踏まえた現実的な議論を行うとともに、引き続き、特定の電源に偏らない供給構造を目指していくことが重要です。

 電力の安定供給、国民負担の軽減、さらには地球温暖化問題への対応といった多くの課題に対応するためにも、原子力の果たすべき役割は大きいものと考えています。国には、こうした原子力の果たすべき役割を踏まえ、原子力を将来のエネルギーミックスの一翼を担う電源として、明確に位置付けていただけるようお願いしたい。

志賀 改めて21年に向けた抱負をお聞かせください。

 当社グループは、エネルギーを安定的に供給すると同時に、社会に対して新しい価値、社会になくてはならない価値を創造して送り届けたいと考えています。そのためにも、新しいビジネスの創出、そしてイノベーションに果敢に挑戦していきます。

志賀 本日はありがとうございました。

対談を終えて:発販分離型の新体制移行に合わせて20年4月に社長に就任。エネルギーの常時安定供給を基本としつつ、新しい電力小売りビジネスモデルを描く。200人の技術系社員を営業の最前線に投入し、エネルギーの最適利用を提案し、また他社との協業による新ビジネスの創出にも意欲を見せる。50年のCO2排出実質ゼロの解は電化にあると捉え、挑む構え。明るい性格で話にケレン味がない。シャープな切れ味。(本誌・志賀正利)

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