【特集3】座談会 エネルギー大転換時代の息吹 需要拡大で水素化の道開く

2021年3月4日

エネファーム、燃料電池自動車などから始まった水素利用。最近では火力発電利用、電力系統への需給調整、再エネ由来の水素製造などあらゆるドメインで本格利用・製造する動きが進む。各界のキーマンが展望を語り合った。

【司会】山根一眞/ノンフィクション作家

【出席者】

古谷博秀/産業技術総合研究所・福島再生可能エネルギー研究所 研究センター長

矢田部隆志/東京電力ホールディングス 技術戦略ユニット技術統括室・プロデューサー

山根史之/東芝エネルギーシステムズ 水素エネルギー事業統括部・事業開発部P2G事業開発グループ マネジャー

司会 私は1990年代から水素、水素と広言してきて、2005年の愛知万博では、プロデューサーを務めた愛知県館で水素時代を訴える出展をしているんです。あれから15年。やっと水素時代の形が見えてきたなと感じています。まず、皆さんがいま取り組んでいる水素について紹介してください。

山根一眞・ノンフィクション作家

古谷 福島県郡山市に福島再生可能エネルギー研究所というのがありまして、そこで研究センター長をしています。ご承知の通り、再エネは出力が変動しますので、有効に使うにはエネルギーのストレージ技術が鍵を握ります。蓄電技術については各社皆さんが開発を進めていますが、われわれはその先の利用形態となるストレージ技術としての水素、キャリアとしての水素、あるいはどうやって再エネから水素へと変換していくか。そんな研究を進めています。水素だけですとどうしてもかさばってしまいます。ですので有機系の触媒(MCH=メチルシクロヘキサン)を利用するなど、いろいろと工夫する必要があります。

 最近では、MCHを使ったエンジンであったり、純水素型のエンジンなどの開発や、世界であまり例がありませんが再エネ由来の水素から有効にアンモニアを製造するプラントなども作っています。

山根 当社ではNEDOの委託事業として、福島県浪江町で太陽光発電(2万kW)を使った水素製造を昨年から実証しています。再エネ由来の水素製造、パワー・ツー・ガスプラントとしては世界最大級の規模です。この実証設備を電力系統に接続。ある時は電力系統への電力需給の調整力(DR)を提供、ある時は水素の製造・供給と、水素のいろいろな活用方法を探っています。

 当社や東北電力さん、東北電力ネットワークさんに加え、再エネから電気を作る電解装置(1万kW規模)を手掛ける旭化成さん、作った水素を貯蔵し輸送する岩谷産業さんなど、日本の水素銘柄としてはトップクラスの陣営で実証を進めています。私はこの実証の取りまとめ役をしています。

司会 その実証は、単に電力設備を作るといった取り組みとは全く異なりますよね。全体をまとめる総合的なエンジニアリング技術が必要になり、苦労が多いでしょう。

山根 おっしゃる通りです。例えば旭化成さんは化学メーカーですが、当社東芝は電機メーカーです。設備を設計するに当たっての共通言語や設計思想が大きく異なるのです。

矢田部 その辺の苦労は分かりますね。東芝さんも電力会社も交流で送電する、つまり電流をいかに減らし、いかに電圧を高くして電気を送るビジネスです。電流を増やすとその分抵抗が増えますので。 一方、電力会社の感覚からすると想像できませんが、化学メーカーさんは、電圧は1ボルト、電流は1000アンペアと、大容量の電流で、電解膜一枚一枚の触媒がどう反応し、反応効率を高めるか。視点が全然違うのです。

司会 水素の時代が来るといわれていますが、なるほど、異分野の断絶があるわけですね。新しいビジネスを生み出すにはそうした異なる世界を結ぶ円滑なコミュニティーを早く作ることが大事ですね。さて、東電さんは、水素に対してはどう取り組んでいますか。

矢田部 東芝さんは浪江町ですが、当社は山梨県甲府市で実証しています。われわれは県内に1万kWのメガソーラーを保有しているので再エネの出力変動分を水素で吸収できるかどうか、地の利を生かして甲府で実証しています。実は、電力会社が水素を手がけるかどうか、昔から議論がありましたが、ここ5年くらいで様変わりしました。以前は化石燃料由来の水素が一般的でした。ところが、再エネ発電が進展し再エネ価格が下落している中、再エネ由来のCO2フリー水素の実用化の可能性が生まれてきました。再エネの電気からガス体エネルギーである水素を作る。われわれはこれを間接電化と呼んでいます。このような再エネ電気の広がりが水素の普及の可能性も広げると考えています。

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