【特集3】座談会 エネルギー大転換時代の息吹 需要拡大で水素化の道開く

2021年3月4日

ニーズで異なる水素価値 国産水素で自給率向上

山根 山根先生が「断絶を超えろ」とおっしゃいましたが、その通りでして、エンジニアの世界にはシステムズ・オブ・システムズという言葉があります。システムの世界を広げていくことを意味する言葉です。水素はその広がりを象徴する世界でして、水素や電力の需要予測、水素を運んだり充塡するための交通シミュレーターなど、あらゆるドメインが関わってきます。そうしないと必要なときに必要な水素を供給できません。

司会 エンジニアリングでありながら、新しい経済学の視野も必要になりますね。

山根 当然必要です。電力や交通の世界と、水素を燃料や素材として扱う世界では経済の仕組みが全く異なります。例えば電気はユニバーサルサービスの観点から、基本的に離島も含めて一律の値段です。しかし、水素は違います。この辺の事情も加味しながら全体設計を描いていく必要があります。

古谷博秀・福島再生可能エネルギー研究所

古谷 現在、水素ステーションで水素を買うと、1kg1100円程度です。弊所の再エネ水素を地元の企業に売ってもらっていますが、国内唯一の再エネ由来の水素を買える場所で、そこは1300円です。高い値段で水素を買ってくれるのは、恐らくモビリティー分野だけでしょう。大量消費する工場用途では、200~300円の水準にしないと難しいと思います。

 一方、品質の視点があります。われわれが普段使っている電気は、全国どこでも一定の品質で、安心して電気を使えます。一方、水素はどうか。本当に純度が高く品質が一定の水素でなくてはいけないのか。その辺も踏まえて全体を描く必要があるかと思います。

矢田部 水素の値段に関して言えば、原材料として使用する水素については、高い値段を払って水素を購入されているという話を聞きます。需要側のニーズによって値段は異なると思います。

司会 いま日本のエネルギー事情は荒波の真っただ中です。今冬は電力価格が高騰しました。再エネの導入量はものすごい勢いで増えています。自由化によるエネルギー各社の競争環境も厳しくなっている。そうした中、どうやって水素社会へ転換していくか。山根さん、何かコメントはありますか。

山根 おっしゃっていただいたようなことはわれわれも日頃から感じておりまして、その際のキーワードの一つが国内の再エネから水素を作る「国産水素」だと考えています。この価値をどのような形で評価してもらえるか。

司会 いい言葉ですね。エネルギー自給率を水素で高めろ、と。

山根 はい。そうした国産水素の価値そのものを用意しておかないと、水素への転換はすぐには難しいのかなと感じています。

司会 そのためには何が必要だと考えていますか。

山根 国産水素を作る場合の電気の調達環境を政策的にサポートするとか、あとは電気の出力抑制の順番を変える、つまりパワー・ツー・ガスを優先的に使うとか、いくつか方策はあるかと思います。

山根 矢田部さんにお聞きします。東電は今まで独占の状態の中で電力の需給管理はやりやすかったと思います。いま申し上げた荒波の中、水素時代が本格的に到来したら、さらに難しい運用になります。

矢田部隆志・東京電力ホールディングス

矢田部 おっしゃる通りです。ですので東芝さんや当社が実証しているのです。

古谷 東芝さんや東電さん共に国内実証を行っていますが、この技術を強くしようと取り組むとき、いかにこの技術を海外展開するか。産業戦略の視点が大変に重要だと考えています。日本のエネルギー事情を考えた場合、完全なグリーン水素利用を目指したいわけですが、現時点では難しい。逆に言うと将来、ゼロエミッションのエネルギーというのは取り合いになることは明らかですので、それまでに技術を培っておく必要があります。

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