【特集3】座談会 エネルギー大転換時代の息吹 需要拡大で水素化の道開く

2021年3月4日

アンモニアの登場 船舶の内燃機関に変化も

司会 水素に限らず、進めないといけませんね。同時に水素がそうした取り組みの引き金になるかもしれません。少し話題を変えて、交通の話をしましょう。大型の輸送分野ではいろいろな環境対策のアプローチがあると思います。

山根 船舶分野では燃料電池を駆動源にした開発が進むと思います。それから電車。ドイツでは既に燃料電池列車が商業運転しています。将来的には液体水素を燃料とした電車が走るようになるのではないでしょうか。一時期、EVバスの開発に携わっていました。それなりに長距離を走ろうとすると、電池の「重さ」を運んでいるようで、車軸の負担が課題でした。

古谷 使い方で分けるべきだと思っています。高速道路を走る高速バスのようなものは強力なパワーユニットが必要ですが、ローカルエリアではEVバスでも十分かなと思います。必要ならFCなど小型ユニットを入れることも考えられるでしょう。

山根 補足しますと、開発時、無線給電方式のバスを検討していました。高速道路のような主幹道路では、将来的には走りながら給電するインフラシステムが整備されていくのではないでしょうか。

矢田部 そうしたイマジネーションが大切ですね。例えば、高速道路では街路灯があって電線が通っています。街路灯にコンセントをつけておく方法もあります。これは一般道の街路灯も同じです。コンセントがあれば、それだけで充電できるわけです。

司会 電気泥棒対策が必要だ。

一同 (笑)。

矢田部 その辺の対策はデジタルの出番でしょう。オン・オフをデジタル認証する。その意味で電気とデジタルの親和性は高いのです。

 それから船舶分野について、一言コメントさせてください。船舶には外航船のような大型船、そして内航船のような小型船があります。内航船の電化についてはわれわれも実証を進めています。海運会社の方と話すと、電動駆動だと、環境対策もさることながら、運用が簡素化されるようなのです。こうした内航船が国内に7000隻ほどありまして、電動化への更新の可能性は高いと思っています。

 外航船については、さすがに電動化は難しい。水素あるいは水素から合成するアンモニアを燃料にする可能性があると思っています。アンモニア燃料船だとCO2フリー化もできます。

司会 船の電動化について私も一言。東日本大震災以降、私は宮城県の小さな漁村の支援活動を続けています。あの震災で2万隻の漁船が失われたといわれていますが、常々、漁船を電動の船に変えるべきだと言っています。いずれも、沿岸漁業の船が中心で、漁場範囲は海岸からせいぜい10 kmです。大量の燃料を必要としているわけではないので、電動化へのハードルは低いはずなんです。地産地消という言葉がありますが、どうしてもメガクラスがイメージされがちです。一方、漁船向けのような規模の地産地消も大事だと個人的には思います。

 ところで、矢田部さんがアンモニア燃料について触れました。最近ゼロエミの観点からアンモニアという声が聞こえてきますが、古谷さん、技術的にはどうですか。

古谷 冒頭で触れましたが、アンモニアについては再エネ由来の水素で作る実証をしていまして、かねてから取り組んでいますが、船舶の駆動に使われるようなレシプロエンジンの燃料向けに使うためには、排ガスの処理面も含めた技術開発が必要です。

 アンモニアは農業の肥料用途としてタンカーで運ばれている化学品ですので、その意味でブリッジテクノロジーとして、燃料として使う道はあり得ると思っています。あと、アンモニアは劇物でして、それも課題だと認識しています。

司会 アンモニアを使った環境性に優れた内燃エンジンが開発されれば、昨今のEV一辺倒だった乗り物事情が大きく変わりますね。

 自動車生産では内燃エンジンがキー技術で、この技術を持たないメーカーは自動車を作ることはできなかった。かつてはアメリカの3大自動車メーカーをもじってビッグスリーといわれていた業界は、いまやエンジン不要のEVの世界となり、多くの小メーカーが自動車を生産するようになるとして、スモールハンドレッドという言葉も生まれましたね。しかし、アンモニアでエンジンを動かす世界となると、再び、内燃エンジンの新技術力が勝負の時代になるかもしれません。

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