【特集3】座談会 エネルギー大転換時代の息吹 需要拡大で水素化の道開く

2021年3月4日

期待される産業戦略 基本計画は電化に焦点

司会 産業戦略という言葉が出ましたので、産業面についてお聞きします。われわれの経済の基盤が産業インフラです。今、多くの工場が昭和の時代に建設して50年くらいが経過しています。古い生産設備は更新のタイミングを迎えているため、水素時代を見据えた新しい世代の産業インフラへと転換するチャンスだと思うんです。エネルギーの使い方だけでなくて、例えば自動車産業の製造ラインの作り方が変わるといった、物の作り方そのものが変わる可能性があります。

古谷 重要なポイントです。われわれはいろいろな工場を持つ企業の方々と、ゼロエミにするにはどうすればいいか議論しています。その際、海外から大量に持ってきた水素を使うケースと、国内の需要側で地産地消として水素を利用するケースは、同じ水素ですが切り分けたほうがいいと考えています。前者は火力発電所などでの大量消費向け。後者は分散型利用で、それらの利用の仕方は全然違いますし、水素の価値も異なります。

 一方、人口減少で電力消費も減るといわれていましたが、ゼロエミによる電化によって、年間1兆kW時だった国内電力需要が1・3兆kW時くらいまで増えるとの試算も出ています。分散型利用の工場での電化を進めると同時に、工場の熱利用についても水素を使う。そういった地産地消というキーワードの中での水素の使われ方も大事になるかなと思っています。

山根史之・東芝エネルギーシステムズ

山根 いま産業はカーボンニュートラルの方向に動き出していると確かに感じています。CO2を出した工場で作った製品は売れない。そんな世界が来るかもしれません。食料品にカロリー表示がされているように、どれくらいCO2を出して生産しているのか。そんな表示がされるようになるかもしれません。そのためには産業構造を変えていかないといけないわけですが、いったん設備投資したら、長期間使うことになるので、今変えておかないと、後で対応しようにも難しくなりますね。

矢田部 産業にはいろいろあります。例えば鉄鋼産業の高炉で水素還元方式の導入となると、巨大な設備なのですぐには難しい。比較的導入が容易なのは、先ほど価格の話題が出ましたが、内陸型でLPガスのような比較的熱量単価の高いエネルギーを利用している工場などが考えられます。太陽光発電の場所も山間部、電力系統網も山間部は維持が大変です。そういったエリアの水素活用の地産地消モデルは親和性が高いでしょう。

 それと、今回のエネルギー基本計画の見直しの中で、ポイントだと思ったのは需要側対策の電化と水素化です。従来の基本計画はエネルギーを供給する側の視点を中心に議論されてきたわけですから、今回の需要側にフォーカスしたことは革新だと思っています。

 そこで、工場の建て替えを例えにしますが、設備管理を担当している現場では、新しい設備やシステムを導入することに恐怖心があります。大きな投資をして、万が一製品に影響を与えたら、大変な事態になります。ましてや社会の変化のスピードが速い現在、大規模投資の判断は非常に難しい。

 対策として、個別分散型の生産ラインに改修する方法があります。水素を大規模な設備で供給するより、生産ラインの局所に水電解装置と水素ボイラを分散設置し、その場で水素を作り工程ごとの熱需要に使う。そして徐々に増強させる方法がエネルギー基本計画の実効性を高めると思っています。

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