【都市ガス導管新社発足】総合エネルギー市場創造へ 集大成を迎えたエネルギー一体改革

2022年5月8日

4月1日、ガスシステム改革の最終段階となる法的分離が実施された。

脱炭素化やエネルギー資源価格高騰など事業環境が激変する中で、新たに誕生した導管3社はどのような役割を果たしていくのか。

 東京・大阪・東邦の大手都市ガス3社の導管部門の法的分離が4月1日に実施され、東京ガスネットワーク、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワークとして新たなスタートを切った。ガスシステム改革の総仕上げとなる法的分離を経て、業界の垣根を取り払い総合的なエネルギー市場を創り上げるために進められてきたエネルギー分野の一体改革は、一つの区切りを迎えたことになる。

以前は、特定の事業者が小売りやガスパイプラインの維持・運用などを地域独占的に行ってきた都市ガス事業。新たに小売り事業に参入する事業者は、託送契約を結び既存の導管を利用して自社の顧客にガスを供給する。そのため、小売り事業者間の競争を促進するには、新規参入者と導管を持つ事業者の小売部門との導管利用における公平性の確保が求められる。

導管運用の中立性確保のため、これまでもガス製造や小売部門と別会計にする「会計分離」が行われていた。だが、大手電力会社の法的分離が2020年4月に実施され送電部門を別会社化したこともあり、それと平仄を合わせる形で、ガス会社にも「兼業」を禁じる法的分離を義務化することで、より厳格な中立性を求めることになったのだ。

とはいえ、既存都市ガス事業者の多くは中小規模であり、自前のLNG基地を持ち都市ガスを製造している事業者は少ない。そこで、①導管の総延長数が全国シェアでおおむね1割以上であること、②保有する導管に複数事業者のLNG基地が接続していること―を要件とした結果、大手3社のみに法的分離が義務化され、取締役などの兼職や適正な競争関係を阻害する恐れのある条件でグループ内取引を行うことの禁止といった行為規制が課されることになった。

ただし、導管分離が義務化されない他の事業者にも、導管事業者が自社の小売・製造部門の事業活動を有利にする広告・宣伝などを行うことの禁止など、行為規制の一部が課される。

都市ガス小売り事業者の競争相手は同じ都市ガスの売り手ばかりではない。既存の都市ガス事業者は、自由化前からLPガスや電化など、他燃料も含めた激しいエネルギー需要争奪戦を繰り広げてきた。今後は、人口減少や供給設備の老朽化といった課題に直面する上、「脱炭素化」や「LNGをはじめとするエネルギー資源の価格高騰」といった新たな要素も、地方の中小事業者を含む都市ガス業界にさらなる変革を迫ることになるだろう。

導管3社プロフィール(2020年度末実績)
各社供給計画より作成

熱エネルギーの脱炭素化 欠かせない各社の連携

都市ガス事業を巡る経営環境が激変していく中で、新たに立ち上がった導管事業者に求められることは何だろうか―。

日本ガス協会の早川光毅専務理事は、導管を使ってガス体エネルギーを供給する導管事業者を「ガス事業そのものの中核を担っていく存在だ」と位置付け、その上で、「これまでの『安定供給と保安の確保』というミッションに加え、『ガスの普及拡大』の取り組みも導管事業者の重要な役割であり、その実現のためには、各導管事業者が個別に創意工夫をしつつ協調して対応しなければならない」と、ガス体エネルギーの成長には各社の連携が欠かせないとの見方を強調する。

例えば導管3社は、24年度に順次導入が始まるスマートメーター開発で共同歩調を取っている。通信規格を共通化することで開発コストを低減しようという狙いだ。

通信機能を備えたスマートメーターの普及が進めば、遠隔で都市ガスの検針・閉栓などを行えるようになり、平常時の現地作業の大幅な効率化を図ることができる。また、地震などの自然災害時にも遠隔での保安措置が可能となり、保安の強化やレジリエンスの向上につながる。

「脱炭素」という避けては通れない命題にも協調して取り組むことになる。石油や石炭よりもCO2排出量が少ない化石エネルギーとして、低炭素社会の担い手として期待されてきた天然ガス。ところが時代は脱炭素社会を見据えはじめ、このままでは業界そのものの存続が危ぶまれかねない。次世代の熱エネルギーとして既に水素やメタネーション、アンモニアの導入を模索するが、その供給システムの実現に導管3社が果たすべき役割は大きい。

新設された導管3社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上というこれまでの役割に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けた新技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新たな事業分野に主体的に取り組んでいくことが期待される。

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